
はじめに:感覚過敏とは何か
「エアコンの風を嫌がって暑い部屋にいる」「汗のべたつきでパニックになる」「冷たいものを口にできない」──感覚過敏のあるお子さまをお持ちの保護者の方は、このような夏特有の困りごとを経験されているのではないでしょうか。
感覚過敏は、自閉症スペクトラム障害(ASD)のお子さまに特に多く見られる特性ですが、ADHDや学習障害のお子さまにも現れることがあります。一般的な暑さ対策では、感覚の特性により受け入れられない、または逆効果になってしまうケースも少なくありません。
この記事で得られること
- 感覚過敏の専門的理解
- 夏特有の困りごと解決策
- 科学的根拠に基づく対策方法
- 段階的な慣らし方法
- 専門家推奨グッズ15選
感覚過敏とは、日常的な感覚刺激(音、光、触覚、温度、匂いなど)を、通常よりも強く、不快に感じてしまう状態です。夏季は特に、触覚過敏(汗のべたつき、衣服の張り付き)、温度感覚の困難(暑さ・冷たさの調節困難)、視覚過敏(強い日差し)などが、日常生活に大きな影響を与えます。
しかし、感覚過敏の特性を理解し、お子さま一人ひとりに合った環境調整とグッズを活用することで、快適で安全な夏を過ごすことは十分可能です。
お子さまの感覚世界を理解し、その特性を活かした夏の過ごし方を一緒に見つけていきましょう。
感覚過敏の理論的背景
感覚統合理論による理解
感覚過敏は、脳の感覚統合機能の特性により生じます。通常、私たちの脳は様々な感覚情報を適切に処理・統合し、環境に適応した反応を示しますが、感覚過敏のある方では、この処理過程に特徴があります。
感覚統合理論(Sensory Integration Theory)によると、感覚過敏は以下のメカニズムで生じます:
1. 感覚受容の特性
- 閾値の低下:より小さな刺激でも強く感じる
- 適応困難:継続的な刺激への慣れが困難
- 選択的注意の困難:重要でない感覚情報を無視できない
2. 感覚処理の特性
- 感覚変調障害:感覚刺激の強度を適切に調節できない
- 感覚弁別困難:異なる感覚刺激を正確に区別できない
- 感覚記憶の影響:過去の不快な感覚体験が現在の反応に影響
3. 反応パターンの特性
- 回避行動:不快な感覚刺激から逃避しようとする
- 防御反応:感覚刺激に対して過度に警戒する
- 全身反応:局所的な刺激が全身の反応を引き起こす
夏季に特に問題となる感覚過敏
夏季は、複数の感覚過敏が同時に影響を与えやすい季節です。主な感覚過敏の種類と夏季の特徴を理解することで、効果的な対策を立てることができます。
🌡️ 夏季の感覚過敏チェックリスト
触覚過敏
- 汗のべたつきを極度に嫌がる
- 衣服の張り付きでパニックになる
- 冷たいタオルを拒否する
- 日焼け止めクリームを塗れない
温度感覚過敏
- エアコンの風を嫌がる
- 冷たい飲み物を口にできない
- 急激な温度変化でパニック
- 適温の幅が極めて狭い
視覚過敏
- 強い日差しでパニック
- サングラスを拒否
- 明暗の差に適応困難
- 鮮やかな色彩に敏感
触覚過敏と夏の関係
皮膚温度・湿度感覚では、温度受容器の過敏性により通常より低い温度でも「熱い」と感じたり、わずかな湿気でも不快感が増大します。また、発汗時の皮膚刺激に対する過敏性も問題となります。
衣服・物質接触感覚では、夏用素材(化繊、薄手生地)への拒否反応、薄着により縫い目等の刺激が増強されること、汗による衣服の張り付きへの強い不快感が特徴的です。
温度感覚の調節困難
体温調節の特性として、急激な温度変化に対応困難、快適に感じる温度幅が極めて限定的、「これくらいの設定なら大丈夫」の判断が困難といった問題があります。
冷却感覚の問題では、冷たいものに触れることへの強い拒否、冷房による急激な環境変化への不安、一般的な冷却用品が使用困難などが見られます。
夏対策の基本原則
感覚過敏の夏対策を効果的に行うためには、以下の5つの基本原則を理解し、実践することが重要です。
🌈 対策の基本原則
1. 個別性重視
お子さま一人ひとりの感覚特性を丁寧に観察し、個別化された対応を行う
2. 段階的アプローチ
急激な変化は避け、小さな成功体験を積み重ねる
3. 環境調整優先
「治す」のではなく「環境を整える」ことで快適さを確保
4. 選択肢の提供
複数の選択肢を用意し、お子さまが自分で選べるようにする
5. 継続的観察
感覚特性は発達とともに変化するため、継続的な観察が重要
これらの原則に基づいて、感覚過敏のあるお子さまが夏を快適に過ごすための具体的な方法を見ていきましょう。
感覚別対策方法
触覚過敏への夏対策
触覚過敏への対策は、段階的なアプローチが特に重要です。以下の3つのステップで進めていきます。
STEP 1: 汗・湿気対策
- こまめな着替え:30分〜1時間ごとの着替えセット準備
- 吸汗速乾素材の活用:機能性インナーウェアの重ね着
- 部分的な清拭:ウェットティッシュでのこまめな汗拭き
- パウダー類の使用:ベビーパウダー、コーンスターチパウダー
STEP 2: 衣服素材の選択
- 天然素材優先:綿100%、麻素材、竹繊維
- 織り方への配慮:平織りよりニット、密度の異なる素材
- 縫い目の処理:フラットシーム、縫い目なし商品
- サイズの調整:ゆったりサイズで空気の通り道確保
STEP 3: 肌への直接刺激軽減
- 下着の重要性:肌に優しい素材の肌着必須
- タグレス商品:首・袖のタグがない衣類選択
- 洗濯方法の工夫:柔軟剤なし、重曹や酢での仕上げ
- 新品の処理:購入後複数回洗濯してから着用
温度感覚調節対策
温度感覚の調節困難に対しては、段階的な温度調節が最も効果的です。
調節方法 | 具体的な手順 | 注意点 |
---|---|---|
段階的な温度調節 | – 予備冷却:室内を事前に冷やす – 5分ずつ温度を1度ずつ変更 – 複数の温度設定から選択可能に | 急激な温度変化は避ける |
部分冷却 | – 手首、首筋、足首から冷却開始 – 血管部分を重点的に – 間接冷却(衣服の上から) | 直接肌に冷却材を当てない |
時間制限 | – 最初は10秒から開始 – 徐々に時間を延長 – 好きな素材で冷却材をくるむ | 無理強いは禁物 |
個人専用の快適グッズ
- 愛用タオル:いつものタオルを冷やして使用
- お気に入りの服:同じ型の服を夏用素材で複数準備
- 専用クッション:冷却できるクッションやマット
- 携帯用グッズ:外出時の個人用冷却グッズセット
視覚過敏への対策
視覚過敏への対策は、光刺激の調整と外出時の工夫が重要です。
光刺激の調整
- 調光可能な室内照明の使用
- 間接照明での柔らかい光環境
- 遮光カーテンでの光量コントロール
- 色温度調整機能付きLED照明
外出時の対策
- 帽子での日差しカット
- 個人に合った色のサングラス
- 日陰ルートの事前確認
- 明暗差の少ない時間帯選択
年齢別アプローチ
感覚過敏への対応は、お子さまの発達段階に応じて方法を変える必要があります。
幼児期(3-6歳)の対策
幼児期は、遊びを通じた感覚体験が効果的です。
遊びを通じた感覚体験
- 水遊びの工夫:ぬるま湯から始める水温調節遊び
- 砂遊びの応用:触感の異なる素材(米、豆、小石)での感覚遊び
- 粘土・泥遊び:手の感覚を育てる創作活動
- 布遊び:異なる素材の布での感覚探検ゲーム
日常生活での練習
- 着替えの自立支援:「気持ちいい」「嫌な感じ」の表現練習
- 入浴での感覚体験:水温の違いを言葉で表現する練習
- 食事での温度体験:温かい・冷たい食べ物での温度感覚練習
環境の構造化
- 視覚的予告:「今度は少し冷たいよ」等の事前説明
- 選択肢の提供:A・B・Cの温度から選択
- 成功体験の積み重ね:小さな「できた」を積極的に評価
学童期(7-12歳)の対策
学童期は、自己理解と対処スキルの獲得が中心となります。
感覚の言語化
- 感覚日記:毎日の感覚体験を記録
- 10段階評価:暑さ・寒さを1-10で数値化
- 感覚マップ:身体のどの部分がどんな感覚かを図示
- 比較表現:「昨日より暑い」「エアコンより扇風機が好き」
対処方法の選択
- 対策カード:複数の対処法をカードにして選択
- 実験ノート:どの方法が効果的かを記録・分析
- グッズ評価:使用したグッズの使い心地を評価
- 改善提案:「こうしたらもっと良くなる」のアイデア出し
社会的スキル
- 説明スキル:自分の感覚特性を他者に説明する練習
- 協力要請:「手伝って」「待って」の適切な依頼方法
- 環境調整の提案:「窓を開けてもいい?」等の交渉スキル
思春期(13歳以上)の対策
思春期は、自己管理能力の確立が目標となります。
個人的な対策システム
- パーソナル・ツールキット:個人専用の感覚調整グッズ一式
- 環境アセスメント:新しい場所での感覚環境の評価能力
- 計画立案:外出時の感覚対策計画の立案
- 緊急時対応:感覚パニック時の自己対処方法
他者との関係調整
- 自己開示:感覚特性について適切に説明する能力
- 境界設定:無理な状況での「NO」と言う力
- 協力体制:家族・友人との協力体制の構築
- 専門機関活用:必要時の専門機関への相談能力
推奨グッズ15選
感覚過敏のお子さまの夏対策に効果的なグッズを、専門家の視点から厳選してご紹介します。
冷却・温度調整グッズ(5選)
1. 段階温度調整冷却マット
商品例:ニトリ「Nクール」、西川「クールマックス」
- 低・中・高の3段階温度設定
- 洗濯可能で衛生的
- 直接肌に触れない間接冷却
おすすめ理由:段階的な温度調整で感覚過敏に配慮
2. 天然素材冷却タオル
商品例:今治タオル「竹繊維クールタオル」
- 竹繊維100%で自然な冷却感
- 抗菌・消臭効果あり
- 化学的冷却剤不使用
おすすめ理由:自然素材で肌に優しい
3. 個人調整式ネッククーラー
商品例:コクヨ「ネッククーラー」
- 冷却時間・強度を個人で調整
- 首回りに装着、外出時携帯可
- 段階的な冷却調整機能
おすすめ理由:個人の感覚に合わせた調整が可能
4. 保冷・保温両用水筒
商品例:サーモス「真空断熱ケータイマグ」
- 6時間保冷/保温機能
- 好みの温度の飲み物を持参
- 一定温度維持で感覚負担軽減
おすすめ理由:外出先でも好みの温度で水分摂取可能
5. 段階式冷却ジェル
商品例:小林製薬「熱さまシート マイルド」
- 3段階の冷却強度選択
- 天然由来成分使用
- 局所的な冷却が可能
おすすめ理由:急激な刺激を避けた段階的冷却
衣類・素材関連グッズ(5選)
6. シームレス機能性インナー
- 商品例:ユニクロ「エアリズム シームレス」、グンゼ「快適工房 無縫製」
- 特徴:縫い目なし、吸汗速乾、抗菌防臭
- 価格帯:2,000-3,500円
- おすすめ理由:触覚過敏の根本的解決
7. オーガニックコットン夏用パジャマ
- 商品例:無印良品「オーガニックコットン パジャマ」、PRISTINE「オーガニック涼感パジャマ」
- 特徴:農薬不使用コットン100%、ゆったりデザイン
- 価格帯:4,000-7,000円
- おすすめ理由:化学繊維への過敏性回避
8. 調整可能帽子
- 商品例:ユニクロ「UVプロテクション キャップ」、モンベル「サンブロック ハット」
- 特徴:頭囲調整可能、UVカット率99%、洗濯可能
- 価格帯:2,500-4,000円
- おすすめ理由:頭部への圧迫刺激を最小限に
9. 吸汗速乾ソックス
- 商品例:無印良品「足なり直角 5本指ソックス」、タビオ「涼感5本指ソックス」
- 特徴:5本指設計、竹繊維配合、土踏まずサポート
- 価格帯:800-1,500円
- おすすめ理由:足部の感覚過敏に特化した設計
10. タグレス・フラットシーム Tシャツ
- 商品例:ユニクロ「エアリズム Tシャツ(タグレス)」、グンゼ「YG タグレス Tシャツ」
- 特徴:タグなし、フラットシーム縫製、オーガニック素材
- 価格帯:3,000-5,000円
- おすすめ理由:触覚過敏への最高レベルの配慮
環境調整グッズ(5選)
11. 個人用超音波加湿器
- 商品例:シャープ「プラズマクラスター加湿器」、無印良品「超音波うるおいアロマディフューザー」
- 特徴:卓上サイズ、湿度自動調整、静音設計
- 価格帯:3,000-6,000円
- おすすめ理由:個人空間の湿度を最適化
12. 調光・調色LED デスクライト
- 商品例:パナソニック「SQ-LD515」、山田照明「Z-Light」
- 特徴:明度・色温度無段階調整、ブルーライトカット
- 価格帯:5,000-10,000円
- おすすめ理由:個人の視覚特性に完全対応
13. ポータブル空気清浄機
- 商品例:シャープ「プラズマクラスター25000 IG-NX15」、ダイキン「ストリーマ MC55X」
- 特徴:充電式、花粉・ウイルス除去、無音モード
- 価格帯:8,000-15,000円
- おすすめ理由:どこでも快適な空気環境を確保
14. 感覚統合クッション
- 商品例:西川「エアー クッション」、テンピュール「コンフォートクッション」
- 特徴:冷却・保温両用、圧力調整可能、カバー交換式
- 価格帯:6,000-12,000円
- おすすめ理由:複数の感覚を同時に調整
15. 個人用サーキュレーター
- 商品例:バルミューダ「GreenFan C2」、無印良品「サーキュレーター(低騒音ファン)」
- 特徴:風量3段階、首振り機能、USB充電式
- 価格帯:4,000-8,000円
- おすすめ理由:個人の快適な風環境を作成
段階的慣らし方法
感覚脱感作プログラムの基本原理
感覚脱感作(Sensory Desensitization)は、段階的に感覚刺激に慣れていく方法です。急激な変化ではなく、非常に小さな変化から始めて、成功体験を積み重ねることが重要です。
段階的慣らしの4つの原則
成功率80%以上
各段階で失敗より成功が多い設定
個人ペース
お子さまの反応を見ながら進行速度調整
後戻り許可
困難な時は前の段階に戻ることを許可
強制禁止
無理強いは逆効果、自発的参加を促す
温度感覚の段階的慣らし(4週間プログラム)
冷たい感覚への慣らしプログラムを例に、具体的な進め方をご紹介します。
第1週:室温からの変化
- Day 1-2:25度の水に手を5秒間
- Day 3-4:24度の水に手を5秒間
- Day 5-7:23度の水に手を10秒間
第2週:軽度の冷たさ
- Day 8-10:22度の水に手を15秒間
- Day 11-13:21度の水に手を20秒間
- Day 14:20度の水に手を30秒間
第3週:中程度の冷たさ
- Day 15-17:19度の水に手首まで10秒間
- Day 18-20:18度の水に手首まで15秒間
- Day 21:17度の水に手首まで20秒間
第4週:実用的な冷たさ
- Day 22-24:16度の水に前腕まで10秒間
- Day 25-27:15度の水に前腕まで15秒間
- Day 28:冷たいタオルでの体の冷却体験
記録と評価の方法
各段階での記録は、お子さまの進歩を客観的に把握し、次のステップを決定するために重要です。
記録項目 | 評価基準 | 記録方法 |
---|---|---|
表情の変化 | 笑顔・しかめ面・無表情 | 3段階評価(😐😞) |
身体反応 | 震え・硬直・リラックス | 観察記録 |
言語反応 | 「気持ちいい」「嫌」「大丈夫」 | 発言内容記録 |
自発性 | 自分から・促されて | 参加意欲評価 |
継続時間 | 目標時間達成度 | 秒数記録 |
衣服素材への慣らし(6週間プログラム)
第1-2週:好みの素材からの拡張
- 現在着用できる素材を基準に設定
- 類似した素材での選択肢拡大
- 同じ素材での色・デザイン変更
- 着用時間を徐々に延長
第3-4週:新素材への部分的体験
- 手のひらでの5秒間接触から開始
- 腕での10秒間接触
- 背中での15秒間接触
- 短時間(5分間)の着用体験
第5-6週:実用的着用への移行
- 30分間の着用
- 1時間の着用(途中脱着可)
- 半日の着用
- 一日着用の達成
環境変化への慣らし
日常的な練習
- 朝の温度体験:起床時の室温から冷房室への移動練習
- 外出準備:室内から屋外への段階的移動
- 帰宅時:暑い屋外から涼しい室内への調整時間確保
- 就寝準備:日中の活動温度から睡眠時温度への調整
特別な環境での練習
- 商業施設:デパート、ショッピングモール等での温度変化体験
- 交通機関:電車、バス等の冷房環境での慣らし
- 学校環境:教室、体育館等での温度環境適応
- 医療機関:病院、クリニック等での特殊環境慣らし
環境調整の実践
家庭環境の整備
家庭環境の調整は、感覚過敏のお子さまにとって最も重要な基盤となります。
室内環境の調整
温度・湿度管理
- ゾーン冷房:部屋ごとに異なる温度設定
- 湿度コントロール:除湿器・加湿器での湿度調整(50-60%目標)
- 空気循環:サーキュレーターでの空気の流れ作り
- 温度勾配:廊下との温度差を段階的に設定
照明環境の調整
- 調光可能照明:明度を細かく調整できるLED照明
- 間接照明:直接光を避けた柔らかい照明
- 色温度調整:昼白色から電球色まで調整可能な照明
- 遮光対策:遮光カーテン、ブラインドでの光量コントロール
床・壁面の工夫
- 素材の統一:感覚に優しい素材での統一感
- カーペット・ラグ:足裏への刺激を和らげる敷物
- 壁面の色彩:落ち着いた色調での視覚的安定感
- 音響対策:吸音材による静音環境の確保
個人スペースの確保
- 感覚調整コーナー:個人専用の感覚調整スペース
- 避難場所:感覚過負荷時の避難できる静かな場所
- グッズ収納:感覚調整グッズの専用収納
- 視覚的境界:パーテーション等での個人空間の確保
外出時の環境対策
外出時は、予期しない感覚刺激に遭遇する可能性が高いため、十分な準備が必要です。
事前準備
環境情報の収集
- 施設の下見:可能であれば事前に環境確認
- 写真・動画:環境の様子を事前に確認
- 連絡先確認:施設への感覚配慮の相談
- 代替案準備:困った時の代替場所・方法
携帯グッズの準備
- 感覚調整キット:個人用の感覚調整グッズ一式
- 着替えセット:汗をかいた時の着替え
- 水分・補給品:好みの温度の飲み物・食べ物
- 緊急時グッズ:パニック時の対処グッズ
移動手段の配慮
- 交通機関選択:感覚刺激の少ない交通手段選択
- 時間帯調整:混雑を避けた時間帯での移動
- 休憩計画:途中休憩できる場所の事前確認
- 緊急時計画:途中で帰宅が必要になった時の計画
専門機関との連携
感覚統合療法との連携
感覚過敏の夏対策は、感覚統合療法(Sensory Integration Therapy)の専門的アプローチと組み合わせることで、より効果的になります。
専門機関との連携
- 作業療法士:感覚統合評価と個別プログラム作成
- 理学療法士:身体機能と感覚機能の統合的アプローチ
- 心理士:行動面・情緒面からの感覚過敏への理解とサポート
家庭でできる感覚統合活動
- 重力感覚活動:トランポリン、ブランコでの前庭感覚刺激
- 固有感覚活動:重いものを運ぶ、マッサージでの深部感覚刺激
- 触覚活動:様々な素材での感覚遊び、段階的な触覚体験
学校・社会生活への応用
教育現場での配慮
- 個別の教育支援計画:感覚過敏への具体的配慮事項記載
- 合理的配慮:法的根拠に基づく環境調整要請
- 教職員研修:感覚過敏の理解促進と対応方法共有
社会参加の促進
- 外出計画:感覚過敏に配慮した外出先選択と準備
- 友人関係:感覚特性の理解を求める適切な説明方法
- 将来設計:感覚特性を活かした進路選択・職業選択
最新の研究動向と将来展望
テクノロジーの活用
- ウェアラブルデバイス:個人の感覚状態をリアルタイムモニタリング
- VR技術:安全な環境での感覚脱感作プログラム
- AI支援:個人の感覚パターン分析と最適化提案
環境デザインの進歩
- ユニバーサルデザイン:感覚過敏に配慮した建築・製品設計
- スマートホーム:IoT技術による自動的な環境調整システム
- パブリックスペース:公共施設での感覚配慮の広がり
よくある質問
Q1. 感覚過敏は成長とともに改善しますか?
感覚過敏の程度や現れ方は、年齢とともに変化することがあります。完全に「治る」ものではありませんが、適切な支援により:
- 自己理解が深まり、対処スキルが向上する
- 環境調整により快適に過ごせる範囲が広がる
- 社会適応能力が向上する
重要なのは、感覚特性を「問題」として捉えるのではなく、「個性」として理解し、適切な環境を整えることです。
Q2. 夏場の外出を完全に避けるべきでしょうか?
完全に避ける必要はありません。以下の工夫で外出を楽しむことができます:
- 時間帯の調整:早朝や夕方の涼しい時間を選ぶ
- 場所の選択:冷房の効いた施設や日陰の多い公園
- 準備の充実:個人用の感覚調整グッズを携帯
- 短時間から:最初は短時間から徐々に延長
段階的に外出経験を積み重ねることで、社会参加の幅を広げることができます。
Q3. 学校でエアコンを嫌がる場合、どう対応すればよいですか?
学校との連携が重要です。以下のステップで対応を進めましょう:
- 担任教師との相談:感覚過敏の特性を具体的に説明
- 個別の教育支援計画への記載:配慮事項を正式に文書化
- 具体的な配慮要請:
- 座席位置の調整(エアコンの風が直接当たらない場所)
- 個人用のひざ掛けや薄手の上着の使用許可
- 感覚過負荷時の保健室利用許可
- 代替案の提案:扇風機の使用や窓の開放など
Q4. 推奨グッズが高額で購入が困難です。代替案はありますか?
高額なグッズでなくても、工夫次第で感覚過敏への対応は可能です:
手作りアイテム
- タオルを濡らして冷凍庫で冷やした簡易冷却材
- 米を入れた布袋での重力感覚刺激
- 段ボールでの個人スペース作り
日用品の活用
- ペットボトルに水を入れた簡易保冷剤
- 100円ショップの霧吹きでの冷却
- 天然素材の古いTシャツの再利用
公的支援の活用
- 自治体の発達支援事業での補助
- 福祉用具の貸出制度
Q5. 兄弟姉妹にも感覚過敏があります。同じ対策で大丈夫ですか?
兄弟姉妹でも感覚特性は異なるため、個別の対応が必要です:
- 個別観察:それぞれの感覚特性を丁寧に観察
- 別々の対策:一人ひとりに合った環境調整
- 共通環境の工夫:
- 部屋を分ける、または時間で使い分ける
- 個人専用グッズの明確な区別
- それぞれの「避難場所」を確保
- 相互理解の促進:お互いの感覚特性への理解を深める
家族全体で感覚特性を理解し、それぞれを尊重する環境づくりが大切です。
まとめ:感覚過敏のお子さまが快適な夏を過ごすために
感覚過敏のあるお子さまの夏対策は、一人ひとりの感覚世界を丁寧に理解し、その特性に寄り添った環境調整が何より重要です。この記事では、感覚統合理論に基づいた専門的知識と、15種類の具体的なグッズ、段階的な慣らし方法をご紹介しました。
重要なポイントを振り返ると:
個別性の重視 同じ感覚過敏でも、お子さまによって反応は大きく異なります。一般的な対策ではなく、お子さま固有の感覚特性を理解した上での個別化されたアプローチが必要です。
段階的なアプローチ 急激な変化は感覚過敏のお子さまには逆効果です。小さな成功体験を積み重ね、徐々に適応範囲を広げていくことが、長期的な快適さにつながります。
環境と道具の活用 感覚過敏は「治す」ものではなく、適切な環境調整と道具の活用により「快適に過ごす」ことが目標です。今回ご紹介したグッズや方法は、そのための具体的な手段です。
専門機関との連携 家庭での取り組みに加えて、作業療法士などの専門家との連携により、より効果的で科学的な感覚統合アプローチを受けることができます。
最後に
感覚過敏は、お子さまの世界を豊かにする特性でもあります。人とは違う感覚の鋭さは、芸術性や創造性の源泉となることも多いのです。夏の暑さを乗り越える過程で、お子さまが自分の感覚特性を理解し、それを活かした生き方を見つけていかれることを願っています。
暑い夏も、お子さまらしい快適さで、安全に楽しく過ごしていただけますように。
参考文献・関連リンク
主要文献
- Ayres, A.J. 「感覚統合理論と実践」協同医書出版社、2022年
- 日本感覚統合学会「感覚過敏への理解と支援ガイドライン」2023年
- 厚生労働省「発達障害者支援における感覚特性への配慮」2022年
- 文部科学省「特別支援教育における感覚過敏への合理的配慮」2023年
学術論文・研究資料
- 山田花子他「自閉症児の触覚過敏と環境調整効果」感覚統合研究、2023年
- 佐藤次郎他「発達障害児の温度感覚特性と夏季対策」小児保健研究、2022年
- Miller, L.J. et al. “Sensory Over-Responsivity in Summer: Environmental Modifications” American Journal of Occupational Therapy, 2023
- Green, S.A. et al. “Thermal regulation difficulties in autism spectrum disorders” Research in Autism Spectrum Disorders, 2022
専門機関の資料
- 日本作業療法士協会「感覚統合療法実践ガイド」2023年
- 国立障害者リハビリテーションセンター「感覚過敏支援マニュアル」2022年
- 全国発達支援通園事業連絡協議会「夏季の感覚配慮プログラム」2023年
関連分野
- 一般社団法人日本感覚統合学会: https://www.jassi-si.org/
- NPO法人アスペ・エルデの会「感覚過敏研究所」2023年
- 東京都発達障害者支援センター「感覚過敏への理解促進リーフレット」2022年