「不器用」には理由があった――DCD(発達性協調運動症)への注目が高まる理由と、お子さまへの正しい支援の道筋

はじめに:「うちの子、なんでこんなに不器用なの?」という悩み

お子さまの様子を見て、こんな思いを抱いたことはないでしょうか。

「何度教えても、お箸がうまく使えない」「ボタンをかけるのに、いつも時間がかかる」「縄跳びやスキップが、どうしてもできるようにならない」「字を書くのが極端に遅く、いつも書き直している」――これらは多くの親御さんが感じている、お子さまの「不器用さ」に関する心配事です。

こうした困りごとに対して、「練習が足りないから」「本人のやる気の問題」「そのうちできるようになる」といった声をかけられた経験のある方も少なくないでしょう。しかし、その「不器用さ」の背景には、脳機能の発達特性が関係している可能性があります。それがDCD(発達性協調運動症:Developmental Coordination Disorder) です。

近年、発達障害に関する社会的関心が高まる中で、自閉スペクトラム症(ASD)やADHD(注意欠如・多動症)については広く知られるようになりました。しかし、DCDはいまだ保護者や教育関係者の間でも十分に認識されているとは言いがたい状況があります。実際、厚生労働省が令和4年度に実施した調査では、「DCDは保育現場、教育現場でも十分認識されておらず、支援も充実していない」という現状が明らかになっています。

本記事では、DCDへの注目が高まっている背景、その特徴と診断基準、見逃されやすいサイン、そして家庭や学校でできる具体的な支援方法について、最新の研究や専門家の知見をもとに詳しく解説します。お子さまの「できない」を理解し、適切な支援につなげるための一助となれば幸いです。


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第1章:DCD(発達性協調運動症)とは何か

1-1. DCDの定義と基本的な理解

DCD(発達性協調運動症)とは、脳性麻痺や筋ジストロフィーなどの神経・筋疾患がないにもかかわらず、協調された運動スキルの獲得や使用に著しい困難がある状態を指します。国際的な診断基準であるDSM-5-TR(精神疾患の診断・統計マニュアル第5版テキスト改訂版)では、「神経発達症群」の中の「運動症群」に分類されており、いわゆる「発達障害」の一類型として位置づけられています。

DCDのある子どもは、同年代の子どもであれば当たり前にできる運動や動作に大きな困難を抱えます。これは練習不足や努力不足ではなく、中枢神経系の機能障害によって起こると考えられています。

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1-2. 「協調運動」とは何か

DCDを理解するためには、まず「協調運動」という概念を把握する必要があります。協調運動とは、身体の複数の部位を同時に、タイミングを合わせて動かす運動のことです。

たとえば、私たちがキャッチボールをするとき、目でボールを追いながら、適切なタイミングで手を伸ばしてキャッチするという複数の動作を同時に行っています。縄跳びでは、手で縄を回しながら、そのタイミングに合わせてジャンプする必要があります。字を書くときには、目で見た形を認識しながら、手首と指先を細かくコントロールしています。

このように、日常生活のあらゆる場面で私たちは無意識のうちに協調運動を行っています。DCDのある子どもは、この協調運動がうまくできないため、生活のさまざまな場面で困難を感じることになります。

1-3. DCDで見られる2種類の運動の困難

DCDにおける運動の困難は、大きく2つのタイプに分けられます。

① 粗大運動(そだいうんどう)の困難

粗大運動とは、全身の大きな筋肉を使った運動のことです。歩く、走る、跳ぶ、バランスを取るといった動作が含まれます。DCDのある子どもでは、以下のような様子が見られることがあります。

  • よく転ぶ、つまずきやすい
  • 姿勢が悪く、椅子に座っていられない
  • 自転車に乗れない、または習得に非常に時間がかかる
  • スキップができない
  • ボールを投げたり受けたりするのが苦手
  • 縄跳びができない
  • 水泳が苦手

② 微細運動(びさいうんどう)・巧緻運動(こうちうんどう)の困難

微細運動とは、手先や指先を使った細かい動作のことです。DCDのある子どもでは、以下のような困りごとが見られます。

  • お箸やスプーンをうまく使えない
  • ボタンをかけられない、靴ひもが結べない
  • 字が極端に汚い、筆圧が弱すぎる(または強すぎる)
  • ハサミをうまく使えない
  • 定規で線を引くのが難しい
  • 図工や美術の作業が苦手
  • 楽器の演奏が困難

1-4. 有病率と発達障害との併存

DCDの有病率は、学童期の子どもの**約5〜8%**とされています。これは30人学級であれば、1クラスに2〜3人は存在する計算になります。最新の研究では、DCDの有病率はADHD(1〜2%)やASD(1〜2%)よりも高いという報告もあります。

注目すべきは、DCDが他の発達障害と高い確率で併存するという点です。

  • 自閉スペクトラム症(ASD)との併存:軽度のものも含めると、ASDのある子どもの約89%に協調運動の問題が見られるという研究報告があります。
  • ADHD との併存:ADHDのある子どもの約55%に協調運動の問題が見られます。
  • 学習障害(LD)との併存:書字障害(ディスグラフィア)をはじめとする学習の困難と深く関連しています。

このように、DCDは単独で存在することもありますが、他の発達特性と重なり合っていることも多く、総合的なアセスメントと支援が必要となります。


第2章:なぜ今、DCDへの注目が高まっているのか

2-1. 見過ごされてきた「第四の発達障害」

発達障害への社会的関心は年々高まっており、ASDやADHD、学習障害については教育現場や医療現場での認知度が向上しています。しかし、DCDについては依然として認識が不十分な状況が続いてきました。

DCDが見過ごされやすい理由として、以下の点が挙げられます。

① 「不器用」「運動音痴」として片づけられてきた

「運動が苦手な子は昔からいた」「練習すればできるようになる」という考え方が根強く、脳機能の特性として捉える視点が乏しかった歴史があります。

② 知的な遅れがないため気づかれにくい

DCDのある子どもは、知的発達には問題がないことがほとんどです。学業成績が良い場合もあり、「頭はいいのに、運動だけが苦手」という形で見過ごされてしまいます。

③ 診断できる専門家が少ない

DCDの診断経験を持つ医師はまだ少なく、相談しても「様子を見ましょう」と言われるケースや、発達障害として認識されないケースが少なくありません。

④ 「治らないから診断しても意味がない」という誤解

DCDは完全に「治る」ものではありませんが、適切な支援によって日常生活のスキルを向上させ、二次障害を予防することができます。診断を受けることで、合理的配慮を受ける道が開けます。

2-2. 深刻な二次障害のリスク

DCDへの注目が高まっている最大の理由は、適切な支援がなければ深刻な二次障害につながることが明らかになってきたからです。

DCDのある子どもは、日々の学校生活の中で繰り返し失敗体験を重ねています。体育の授業でみんなと同じようにできない、給食の時間に食べこぼしてしまう、板書を写すのが間に合わない、図工の時間に作品が完成しない――こうした経験が積み重なると、子どもの心には大きなダメージが蓄積されていきます。

DCDの子どもに生じやすい二次障害

  • 自己効力感・自己肯定感の低下:「自分は何をやってもダメだ」という思いが強くなる
  • 不安・抑うつ:学校に行くこと自体が苦痛になる
  • いじめの被害:「どんくさい」「足を引っ張る」といったからかいの対象になりやすい
  • 不登校・引きこもり:学校での辛い経験から回避行動に発展する
  • 運動嫌い・運動不足:身体を動かすこと自体を避けるようになり、健康上の問題にもつながる

ある14歳の男子生徒の事例では、小さいころからダンスや球技が苦手でした。中学校の体育でチーム分けをする際、最後までどちらのチームにも選ばれず、「体育の授業を受けたくない」と言うようになり、体育のある日は学校を休むようになってしまいました。

このように、DCDは「単なる不器用」では済まされない、お子さまの人生全体に影響を及ぼしうる問題なのです。

2-3. 厚生労働省の動きと支援体制の整備

こうした背景を受けて、近年では行政も動き始めています。令和4年度には厚生労働省による「協調運動の障害の早期の発見と適切な支援の普及のための調査」が実施され、「DCD支援マニュアル」が作成・公開されました。

このマニュアルでは、保育・教育現場でのDCDの早期発見の重要性、アセスメント方法、具体的な支援の在り方が詳しく解説されています。また、2025年3月に発表された最新の研究論文では、DCDの病態メカニズムの解明や新たな介入法の開発が進んでいることが報告されており、特別支援教育と小児リハビリテーションにおける重要課題として位置づけられています。


第3章:DCDの診断基準と気づきのサイン

3-1. DSM-5-TRによる診断基準

DCDの診断は、主にDSM-5-TR(精神疾患の診断・統計マニュアル第5版テキスト改訂版)に基づいて行われます。診断には以下の4つの基準をすべて満たす必要があります。

【基準A】協調運動技能の獲得や遂行が、その人の年齢や知能から期待されるものより著しく劣っている

具体的には、物をつかんだり道具を使ったりすることが不正確、身体の使い方が極端に不器用、といった症状が見られます。

【基準B】運動技能の欠如が日常生活活動に著明かつ持続的に支障をきたしている

学業、就労前・就労後の活動、余暇、遊びに影響を与えている必要があります。

【基準C】症状の始まりは発達段階早期である

DCDの症状は、生まれつきの脳機能の特性によるものであり、幼少期から存在しています。

【基準D】運動技能の欠如は、知的障害や視覚障害、神経疾患などでは説明できない

脳性麻痺や筋ジストロフィーなど、他の疾患が原因である場合はDCDとは診断されません。

3-2. 年齢別の気づきのサイン

DCDのサインは年齢によって現れ方が異なります。以下は各年齢で見られやすい特徴です。

【乳児期(0〜1歳頃)】

  • 母乳やミルクを飲むときにむせやすい
  • 離乳食でむせることが多い
  • 寝返りやハイハイがうまくできない
  • 抱っこすると全体重をかけてくる(自分で姿勢を保てない)
  • 歩き始めが遅い

【幼児期(2〜5歳頃)】

  • よく転ぶ、ものにぶつかる
  • 階段の昇り降りがぎこちない
  • ジャンプがうまくできない
  • スプーンやフォークをうまく使えない
  • 着替えに時間がかかる、ボタンがかけられない
  • クレヨンや鉛筆の持ち方がおかしい
  • 同年代の子どもの動きについていけない

【学童期(6〜12歳頃)】

  • 縄跳びができない
  • 自転車に乗れない、補助輪がなかなか外せない
  • 球技が極端に苦手
  • 字が汚い、ノートを取るのが遅い
  • 定規やコンパスをうまく使えない
  • 給食を食べるのに時間がかかる、こぼす
  • 体育の授業を嫌がる、参加を避ける
  • 図工や家庭科の作業が苦手

【青年期以降】

  • 髭剃りや化粧がうまくできない
  • 料理や家事の動作がぎこちない
  • タイピングが苦手
  • 自動車運転の習得に困難がある
  • 新しい運動技能の習得に非常に時間がかかる

3-3. DCDが疑われたときの相談先

お子さまにDCDが疑われる場合、以下の相談先が考えられます。

① かかりつけの小児科医

まずは普段からお子さまの発達を見守っている小児科医に相談しましょう。必要に応じて専門医を紹介してもらえます。

② 発達相談を行っている医療機関

小児神経専門医、児童精神科医、発達専門の小児科医などがDCDの診断を行うことができます。ただし、DCDの診断経験を持つ医師はまだ少ないため、事前に確認することをお勧めします。

③ 市区町村の発達支援センター・保健センター

自治体の発達相談窓口では、無料で相談を受けられることが多いです。専門機関への橋渡しをしてもらえることもあります。

④ 児童発達支援事業所・放課後等デイサービス

療育を行う事業所では、作業療法士(OT)や理学療法士(PT)によるアセスメントを受けられることがあります。


第4章:DCDへの支援方法——専門家によるアプローチ

4-1. 支援の基本的な考え方

DCDへの支援を考える際、まず理解しておくべき重要な点があります。

① DCDは「治る」ものではないが、「改善できる」

DCDは脳機能の特性であり、完全に「治る」ものではありません。しかし、適切な支援によって運動技能を向上させ、日常生活をよりスムーズに送れるようにすることは十分に可能です。50〜70%の子どもで協調の問題が青年期以降も持続するとされていますが、支援によって困難さを軽減することができます。

② 二次障害の予防が最重要課題

DCDの支援において最も重要なのは、自己肯定感の低下やいじめ、不登校といった二次障害を防ぐことです。技能の向上だけでなく、心理面のケアも欠かせません。

③ 「できないことを責めない」が大前提

DCDのある子どもは「努力が足りない」のではありません。脳の特性により、他の子どもと同じようにはできないのです。叱責や過剰な反復練習は逆効果であり、子どもの心を傷つけるだけでなく、支援への抵抗感を生みます。

4-2. 専門家による介入アプローチ

DCDに対する専門的な介入は、大きく2つのアプローチに分けられます。

【身体機能指向アプローチ】

身体の機能そのものを改善することを目指すアプローチです。

感覚統合療法(Sensory Integration: SI療法) が代表的です。ブランコやトランポリン、アスレチック遊具などを使って、前庭感覚(揺れや回転の感覚)や固有受容感覚(筋肉の動きを感じる感覚)を刺激しながら、身体図式(自分の体の地図)や運動企画力、バランス能力を伸ばしていきます。

【活動指向・参加指向アプローチ】

身体機能の改善よりも、生活に必要な具体的な動作の獲得に焦点を当てるアプローチです。国際的なDCDガイドラインでは、こちらのアプローチが推奨されています。

CO-OP(日常作業遂行に対する認知オリエンテーション) は、カナダで開発された介入法で、DCDへの効果が実証されています。このアプローチの特徴は、子ども自身が「やりたいこと」を目標として設定し、どうすればできるようになるかを自分で考えながら解決法を見つけていく点にあります。大人は答えを教えるのではなく、子どもが自ら発見できるようにガイドします。

4-3. 作業療法・理学療法の活用

DCDのある子どもへの支援において、作業療法(OT)理学療法(PT) は重要な役割を果たします。これらは保険適用で受けることができます。

作業療法では、日常生活で必要な動作(食事、着替え、書字など)をスムーズに行えるようにするための支援を行います。遊びを通じて、協調運動や手先の器用さを向上させます。

理学療法では、姿勢の安定性やバランス感覚の改善、筋力の強化を図ります。粗大運動の困難さに対してアプローチし、日常生活や学校での動作がスムーズになるよう支援します。

4-4. アセスメントツール

DCDの評価には、標準化された検査ツールが用いられます。

MABC-2(Movement Assessment Battery for Children, 2nd Edition) は、国際的に広く使用されている運動発達の評価ツールです。手先の器用さ、ボールスキル、バランスの3領域を評価します。

CLASP(Check List of obscure disAbilitieS in Preschoolers) は、幼児期の発達の問題をスクリーニングするために作られた質問紙で、5項目の協調運動項目が含まれています。5〜6歳の子どものスクリーニングに特に有効です。


第5章:家庭でできる支援——「遊び」を通じたアプローチ

5-1. 家庭支援の基本姿勢

家庭での支援を行う際、最も大切なのは**「訓練」ではなく「遊び」として取り組む**ことです。いくら効果的なトレーニングでも、子どもが楽しくなければ続きません。強制や義務感は、かえって運動嫌いを助長してしまいます。

家庭支援の基本姿勢

  • 「こうあるべき」という先入観を捨てる:他の子どもと比べず、その子自身のペースを尊重しましょう。
  • 楽しむことを最優先に:子どもが「やりたい」と思えることから始めましょう。
  • 小さな成功体験を積み重ねる:達成可能な目標を設定し、「できた!」という経験を増やしましょう。
  • 失敗を責めない:うまくいかなくても励まし続けることで、挑戦する意欲を守りましょう。

5-2. 粗大運動を育てる遊び

全身を使った遊びで、バランス感覚や身体の使い方を養います。

① トランポリン遊び

トランポリンは、バランス感覚や体幹の強化に非常に効果的です。家庭用の小さなトランポリンでも十分効果があります。ジャンプすることで前庭感覚(揺れの感覚)が刺激され、身体の調整力が向上します。

② 風船バレー

ゆっくり落ちてくる風船は、ボールを使った遊びが苦手な子どもでも取り組みやすいです。風船を目で追いながら手を動かすことで、目と手の協調を養います。親子で向かい合って何回続けられるかチャレンジしてみましょう。

③ だるまさんがころんだ・フリーズゲーム

音楽に合わせて動き、音楽が止まったら動きを止めるゲームです。自分の体をコントロールする能力を伸ばし、姿勢の保持能力を発達させます。

④ ブランコ・ハンモック遊び

揺れる感覚は前庭系の発達に重要です。公園のブランコや、家庭では布団を使った「ブランコごっこ」も効果的です。

⑤ アスレチック・障害物コース

家の中でクッションや椅子を使った「障害物コース」を作り、くぐったり、乗り越えたり、渡ったりする遊びをしましょう。空間認識能力やボディイメージの向上に役立ちます。

5-3. 微細運動を育てる遊び

手先や指先の器用さを養う遊びです。

① 粘土・スライム遊び

粘土をこねたり、ちぎったり、形を作ったりすることで、指先の力加減を学びます。さまざまな硬さの粘土を試すことで、力のコントロール能力が向上します。

② コイン・ビー玉遊び

コインを握る、つまむ、入れるという動作を経験します。いろいろな指でコインをつかむことで、指の力の入れ加減を学びます。貯金箱にコインを入れる遊びも効果的です。

③ ビーズ通し・ひも通し

穴にひもを通す作業は、目と手の協調を養います。最初は大きな穴・太いひもから始めて、徐々に難易度を上げていきましょう。

④ パズル・積み木

パズルを完成させたり、積み木で見本と同じものを作ったりすることで、空間認識能力が向上します。難易度を調整しながら取り組みましょう。

⑤ お手伝いを通じた練習

料理の手伝い(野菜を洗う、混ぜる、飾り付ける)、洗濯物をたたむ、テーブルを拭くといった日常のお手伝いも、さまざまな運動を経験する良い機会です。達成感も得られます。

5-4. 生活場面での工夫

日常生活の中で、お子さまが困りにくくなる工夫を取り入れましょう。

食事の場面

  • 最初から完璧なお箸の持ち方を求めず、エジソン箸などの補助具も活用する
  • 滑り止めマットを敷いて、お皿が動かないようにする
  • スプーン・フォークと併用しても良いと伝える

着替えの場面

  • 時間に余裕を持たせ、急かさない
  • ボタンが少ない服、マジックテープの靴を選ぶ
  • ボタンかけの練習は大きなボタンから始める

書字の場面

  • 鉛筆グリップ(補助具)を使う
  • 太めの鉛筆や三角鉛筆を試す
  • ザラザラした下敷き(紙やすり下敷き)を使うと運筆がしやすくなることがある
  • 完璧を求めず、内容を重視する

第6章:学校での支援と合理的配慮

6-1. 学校での困りごと

DCDのある子どもは、学校生活のさまざまな場面で困難を感じています。

体育の授業

  • 準備運動についていけない
  • チーム競技で「足を引っ張る」と言われる
  • 泳ぐ、跳ぶ、投げるなどの運動技能が求められる
  • ダンスや体操の動きを真似できない

教室での学習

  • 板書を写すのが間に合わない
  • ノートの罫線からはみ出す
  • 図形を描くのが苦手
  • プリントを折ったり、ファイルに綴じたりするのが難しい

図工・美術・家庭科

  • ハサミでまっすぐ切れない
  • 絵がうまく描けない
  • 裁縫ができない
  • 調理実習での作業が遅れる

日常場面

  • 給食をこぼす、食べるのが遅い
  • 掃除当番で雑巾が絞れない
  • 整理整頓ができない

6-2. 合理的配慮の例

障害者差別解消法により、学校は障害のある児童生徒に対して「合理的配慮」を提供することが義務づけられています(公立学校は義務、私立学校は努力義務)。DCDのある子どもへの合理的配慮の例を挙げます。

体育の授業

  • 評価基準を技能だけでなく、取り組む姿勢や理解度も含める
  • 競争や比較を避け、個人の成長を評価する
  • 参加しやすい役割(審判、記録係など)を用意する
  • 代替種目を認める

書字・ノートテイク

  • タブレットやPCでのノートテイクを認める
  • 板書を写真に撮ることを許可する
  • プリントの配布で板書を補う
  • 時間を延長する

制作活動

  • ユニバーサルデザインの道具を使用する(握って回せるコンパス、バネ付きハサミなど)
  • 完成度よりも過程や工夫を評価する
  • 作業時間を延長する

試験・提出物

  • 時間延長を認める
  • パソコンでの解答を認める
  • 別室受験を検討する

6-3. 学校との連携のポイント

合理的配慮を受けるためには、学校との丁寧なコミュニケーションが必要です。

① 診断書・意見書の活用

医師からの診断書や意見書があると、学校側も対応しやすくなります。具体的にどのような困難があり、どのような配慮が有効かを明記してもらいましょう。

② 具体的に依頼する

「うちの子は不器用なので配慮してください」では伝わりにくいです。「板書を写すのに時間がかかるため、プリントの配布をお願いしたい」など、具体的な配慮内容を伝えましょう。

③ 複数の関係者に相談する

担任の先生だけでなく、特別支援コーディネーター、養護教諭、スクールカウンセラーなど、複数の教職員に状況を共有しましょう。

④ 定期的な情報共有

一度伝えたら終わりではなく、定期的に情報を共有し、配慮の効果を確認しながら調整していくことが大切です。


第7章:DCDのある子どもを支える心構え

7-1. 「できない」を責めない

DCDのある子どもは、周囲から「ちゃんとして」「ふざけないで」「よく見て、丁寧に」と注意・叱責されることが多くなりがちです。しかし、本人は真剣に取り組んでおり、できないことには理由があります。

叱責や「もっと頑張れ」という言葉は、子どもの自己肯定感を下げ、挑戦する意欲を奪います。できないことを責めるのではなく、「どうすればできるようになるか」を一緒に考える姿勢が大切です。

7-2. スモールステップで成功体験を

DCDのある子どもは、成功体験が少なくなりがちです。意識的に「できた!」という体験を積み重ねられるよう、目標設定を工夫しましょう。

大きな目標を小さなステップに分解する

「縄跳びが跳べるようになる」という目標は、いくつものステップに分解できます。

  1. 縄を回す練習(跳ばずに)
  2. 縄を使わずにジャンプする練習
  3. ゆっくり回しながら1回だけ跳ぶ
  4. 連続で跳ぶ

それぞれのステップで「できた!」を実感できるようにしましょう。

7-3. 得意なことを見つけて伸ばす

DCDがあっても、すべての運動が苦手というわけではありません。個人差は大きく、苦手な運動がある一方で、特定の活動は得意という子どもも多くいます。

また、運動面での困難があっても、知的能力や芸術的センス、コミュニケーション能力など、他の分野で輝ける可能性は十分にあります。苦手なことの克服だけに注目するのではなく、得意なこと・好きなことを見つけて伸ばすことが、子どもの自信と意欲につながります。

7-4. 周囲の理解を広げる

DCDはまだ社会的な認知度が低いため、「親のしつけが悪い」「本人の努力不足」と誤解されることがあります。保護者の方には、DCDについて周囲に伝え、理解の輪を広げていただきたいと思います。

学校の先生、親戚、ママ友など、さまざまな人にDCDやお子さまの特性について話してみてください。それが周囲の理解につながり、情報収集もしやすくなっていきます。


第8章:Q&A——よくある質問と回答

Q1. DCDは成長すれば治りますか?

DCDは完全に「治る」ものではありません。研究によると、50〜70%の子どもで協調の問題が青年期以降も持続するとされています。しかし、適切な支援とトレーニングによって症状を軽減し、日常生活のスキルを向上させることは可能です。また、成長とともに自分なりの工夫や対処法を身につける方も多くいます。

Q2. DCDの診断を受けるメリットは何ですか?

診断を受けることで、以下のメリットがあります。

  • 「努力不足ではない」と理解でき、本人も保護者も気持ちが楽になる
  • 学校で合理的配慮を受けやすくなる
  • 適切な支援やリハビリにつながる
  • 二次障害の予防につながる

Q3. 普通の「不器用」とDCDの違いは何ですか?

普通の不器用との違いは、「極端さ」と「日常生活への支障」です。DCDでは、同年齢の子どもであれば普通にできることが著しくできず、それによって学校生活や日常生活に支障が出ています。単に「運動が苦手」というレベルではなく、生活全般に影響を及ぼしている場合にDCDが疑われます。

Q4. 薬での治療はありますか?

DCDに対する特効薬はありません。ただし、ADHDが併存している場合には、ADHD治療薬(メチルフェニデート、アトモキセチンなど)がDCDの症状も改善させたという報告があります。

Q5. 運動をたくさんさせれば改善しますか?

単に運動量を増やせば良いというものではありません。DCDのある子どもには、適切な方法での介入が必要です。無理に運動をさせると、失敗体験が増えて運動嫌いを助長したり、自己肯定感が下がったりする恐れがあります。専門家のアドバイスを受けながら、その子に合った方法で取り組むことが大切です。

Q6. どこに相談すればいいですか?

まずはかかりつけの小児科医に相談しましょう。必要に応じて、小児神経科や児童精神科などの専門医を紹介してもらえます。また、市区町村の発達相談窓口、児童発達支援センター、放課後等デイサービスなども相談先になります。ただし、DCDの診断・支援経験を持つ専門家はまだ少ないため、複数の相談先に当たってみることをお勧めします。


おわりに:「できない」ではなく「どうすればできるか」を一緒に

DCDは、決して珍しい障害ではありません。30人学級に2〜3人、お子さまの周りにもきっといるはずです。しかし、その存在はあまりにも見過ごされてきました。「不器用」「運動音痴」というレッテルの下で、多くの子どもたちが苦しみ、自信を失ってきたのです。

今、ようやくDCDへの注目が高まり、支援の道筋が整いつつあります。大切なのは、お子さまの「できない」を責めるのではなく、「どうすればできるようになるか」を一緒に考えることです。そして、できないことを補う工夫を見つけ、できることを伸ばしていくことです。

DCDのある子どもたちも、適切な支援と周囲の理解があれば、自分らしく輝くことができます。本記事が、お子さまの可能性を信じ、支える一助となれば幸いです。

もし、お子さまの不器用さや運動の苦手さが気になる場合は、一人で悩まず、専門家に相談してみてください。早めの相談が、お子さまの笑顔につながります。


参考文献

主要文献・専門書

  • 厚生労働省「DCD支援マニュアル」令和4年度障害者総合福祉推進事業「協調運動の障害の早期の発見と適切な支援の普及のための調査」
  • American Psychiatric Association (2022). DSM-5-TR 精神疾患の診断・統計マニュアル
  • 古荘純一『DCD 発達性協調運動障害 不器用すぎる子どもを支えるヒント』講談社
  • 宮原資英・辻井正次編『発達性協調運動障害[DCD]』金子書房
  • Polatajko, H. J. & Mandich, A.『子どもの「できた!」を支援するCO-OPアプローチ』金子書房

学術論文・研究資料

  • Green, D. et al. (2009). The overlap between ataxia, dyspraxia and developmental coordination disorder. Developmental Medicine & Child Neurology
  • Watemberg, N. et al. (2007). Developmental coordination disorder in children with attention-deficit-hyperactivity disorder and physical therapy intervention.
  • 2025年3月発行・奈良県理学療法学「子どもの運動の不器用さ(発達性協調運動症DCD)に挑戦する」

専門機関の資料・Webサイト

  • 国立障害者リハビリテーションセンター・発達障害情報支援センター「発達性協調運動症」 https://hattatsu.go.jp/
  • 日本小児心身医学会「発達性協調運動症」
  • LITALICO発達ナビ「DCD(発達性協調運動症)とは?具体的な特徴や対応法」 https://h-navi.jp/
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