発達障害の子どもが寝ない・眠れない原因と家庭でできる睡眠改善法


はじめに―毎晩の寝かしつけに疲れ果てていませんか?

「今日も寝てくれない…」「布団に入っても1時間以上起きている」「夜中に何度も起きてしまう」

発達障害のあるお子さまを育てる親御さんの多くが、このような睡眠の悩みを抱えていらっしゃるのではないでしょうか。毎晩続く寝かしつけの苦労は、想像以上に心身を消耗させるものです。日中の仕事や家事に追われながら、夜になっても休めない日々が続くと、親御さん自身が疲弊してしまうことも少なくありません。

実は、この「寝ない」という問題は、発達障害のあるお子さまに非常に高い頻度で見られる特徴です。定型発達児の睡眠障害が25〜40%であるのに対し、自閉スペクトラム症(ASD)のお子さまでは40〜80%、注意欠如・多動症(ADHD)のお子さまでは25〜50%が睡眠障害を合併するとの報告があります。つまり、発達障害のあるお子さまの2人に1人以上が、何らかの睡眠の問題を抱えている可能性があるのです。

この記事では、発達障害と睡眠の関係について科学的な背景からわかりやすく解説し、ご家庭で今日から実践できる具体的な改善策をお伝えします。お子さまの睡眠が改善されれば、日中の行動や情緒の安定にもつながり、ご家族全体の生活の質が向上する可能性があります。一緒に、より良い眠りへの第一歩を踏み出しましょう。


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発達障害の子どもに睡眠問題が多い理由

脳の機能と睡眠の関係

発達障害のあるお子さまに睡眠の問題が多い背景には、いくつかの要因が複雑に絡み合っています。まず理解しておきたいのは、睡眠と覚醒を調節する脳の中枢神経系の働きに関係があるという点です。

私たちの体には「体内時計」と呼ばれる仕組みがあり、これが睡眠と覚醒のリズムをコントロールしています。この体内時計の調節に重要な役割を果たしているのが**「メラトニン」**というホルモンです。メラトニンは、夜になると分泌量が増えて眠気を引き起こし、明るくなると分泌量が減少して覚醒を促します。

発達障害のあるお子さまの中には、このメラトニンの分泌パターンに乱れが生じやすい方がいます。具体的には、夜間のメラトニン分泌量が少なかったり、分泌のタイミングがずれたりすることで、寝つきが悪くなったり、睡眠リズムが不安定になったりします。

メラトニンと体内時計の仕組み

朝〜日中

朝日を浴びることで体内時計がリセットされ、メラトニンの分泌が抑制されます。脳が覚醒モードになり、活動的に過ごせます。

🌆 夕方〜夜

暗くなるとメラトニンの分泌が始まり、体温が下がって眠気が訪れます。通常、就寝2〜3時間前から分泌が増加します。

発達障害との関連:発達障害のあるお子さまでは、メラトニンの分泌量が少ない、または分泌のタイミングが遅れることがあり、これが入眠困難の一因となっています。

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感覚過敏が睡眠に与える影響

発達障害、特に自閉スペクトラム症のあるお子さまの多くが「感覚過敏」を持っています。感覚過敏とは、音、光、触覚、嗅覚などの刺激に対して、通常よりも強く敏感に反応してしまう状態のことです。

この感覚過敏が睡眠に大きな影響を与えます。たとえば、以下のようなケースがあります。

  • 聴覚過敏: 時計の秒針の音、エアコンの作動音、外の車の音など、小さな物音が気になって眠れない
  • 触覚過敏: パジャマの素材や縫い目、布団の肌触りが不快で落ち着けない
  • 視覚過敏: わずかな明かりでも気になってしまう、または逆に真っ暗が怖い
  • 温度への過敏: 暑さや寒さを感じやすく、快適な温度の範囲が狭い

こうした感覚の特性を理解せずに「早く寝なさい」と言っても、お子さまにとっては不快な刺激に囲まれた状態でリラックスすることを求められているようなもの。まずはお子さまがどの感覚に敏感なのかを把握することが、睡眠改善の第一歩となります。

過集中・切り替えの難しさ

ADHDのお子さまに多く見られる特性として、興味のあることに没頭すると切り替えが難しくなる「過集中」があります。ゲームや動画、好きな遊びに熱中していると、「もう寝る時間だよ」と言われても気持ちを切り替えられず、就寝時間がどんどん遅くなってしまうことがあります。

また、日中に受けた様々な刺激や出来事が頭の中で整理しきれず、布団に入っても次々と考え事が浮かんできて眠れないというケースも少なくありません。学校での出来事や翌日の心配事などが頭から離れず、リラックスできない状態が続いてしまうのです。

発達障害のタイプ別:よく見られる睡眠の問題

タイプ主な睡眠の問題睡眠障害の割合
自閉スペクトラム症(ASD)入眠困難、中途覚醒、感覚過敏による睡眠の乱れ、こだわりによる就寝儀式の固執40〜80%
注意欠如・多動症(ADHD)寝つきの悪さ、切り替えの難しさ、日中の眠気、睡眠リズムの乱れ25〜50%
ASD+ADHD併存上記の複合的な問題が見られやすいより高い割合

睡眠不足がお子さまに与える影響

睡眠の問題を「たかが寝不足」と軽視することはできません。睡眠不足が続くと、お子さまの発達や日常生活に様々な影響を及ぼします。

発達への影響

睡眠中には成長ホルモンが分泌され、体の成長だけでなく、脳の発達や記憶の定着にも重要な役割を果たしています。十分な睡眠が取れないと、学習した内容の記憶が定着しにくくなり、学力に影響が出ることがあります。

また、睡眠不足は注意力や集中力の低下を引き起こします。もともとADHDの特性がある場合、睡眠不足によってさらに集中が難しくなり、日中のパフォーマンスが大きく低下してしまうことがあります。

行動・情緒面への影響

睡眠不足の状態が続くと、イライラしやすくなったり、かんしゃくを起こしやすくなったりします。発達障害のあるお子さまの場合、睡眠障害が存在すると「常同行動」「不安」「攻撃性」などの症状が強く出やすくなることが報告されています。

つまり、睡眠の問題が発達障害の症状を悪化させ、悪化した症状がさらに睡眠を妨げるという悪循環に陥りやすいのです。逆に言えば、睡眠を改善することで、発達障害の症状そのものが軽減する可能性があるということでもあります。

睡眠不足が引き起こす悪循環

睡眠不足・睡眠の質の低下
日中の眠気・集中力低下・イライラ
発達障害の症状(多動・興奮・不安)が悪化
夜になっても気持ちが落ち着かない
さらに眠れなくなる…

この悪循環を断ち切るためには、まず睡眠環境と生活習慣の改善から始めることが重要です

家族全体への影響

お子さまの睡眠問題は、親御さんの睡眠や心身の健康にも影響を及ぼします。夜中に何度も起こされたり、寝かしつけに長時間かかったりすることで、親御さん自身も慢性的な睡眠不足に陥りがちです。その結果、ストレスやうつ症状、不安感が高まってしまうケースも報告されています。

お子さまの睡眠改善に取り組むことは、ご家族全体の生活の質を向上させることにもつながるのです。


年齢別:推奨される睡眠時間

お子さまに必要な睡眠時間は年齢によって異なります。厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」では、以下の睡眠時間が推奨されています。

年齢別の推奨睡眠時間(厚生労働省)

4ヶ月〜1歳未満

12〜16時間

(昼寝含む)

1〜2歳

11〜14時間

(昼寝含む)

3〜5歳

10〜13時間

(昼寝含む)

小学生

9〜12時間

 

中高生

8〜10時間

 

※個人差がありますが、目安として参考にしてください

お子さまの実際の睡眠時間がこの推奨時間に達していない場合や、十分な時間寝ているはずなのに日中に眠そうにしている場合は、睡眠の量や質に問題がある可能性があります。


家庭でできる睡眠改善の具体策

ここからは、ご家庭で実践できる具体的な睡眠改善策をご紹介します。すべてを一度に取り入れる必要はありません。お子さまの状況に合わせて、できることから少しずつ始めてみてください。

【基本編】睡眠環境を整える

1. 光の環境

人間の体内時計は光に大きく影響を受けます。朝はしっかりと日光を浴び、夜は暗い環境で過ごすことが、良い睡眠の基本です。

実践ポイント:

  • 朝起きたらカーテンを開け、日光を浴びる習慣をつける
  • 就寝1〜2時間前からは部屋の照明を暗めに調整する
  • 寝室は遮光カーテンを使用し、できるだけ暗くする
  • 真っ暗が怖いお子さまには、オレンジ系の常夜灯を使用する

2. 音の環境

聴覚過敏のあるお子さまにとって、小さな物音でも睡眠の妨げになることがあります。

実践ポイント:

  • 時計の秒針がカチカチ鳴るものは寝室に置かない
  • エアコンや空気清浄機の運転音が気になる場合は、音の静かなモードに
  • 外の音が気になる場合は、ホワイトノイズマシンや自然音を活用
  • どうしても音が気になる場合は、子ども用の耳栓も選択肢に

3. 温度と寝具

快適に眠れる室温は一般的に18〜22度程度と言われていますが、感覚過敏のあるお子さまは温度の好みが特定の範囲に限られることがあります。また、寝具の素材も重要です。

実践ポイント:

  • お子さまが快適と感じる温度を見つけ、一定に保つ
  • 触覚過敏がある場合は、チクチクしない柔らかい素材のパジャマを選ぶ
  • タグが気になる場合は切り取るか、タグのない肌着を選ぶ
  • オーガニックコットンなど、肌に優しい素材の寝具を検討する

【生活リズム編】規則正しい習慣をつくる

1. 起床時間を固定する

睡眠改善で最も重要なのは、実は「早く寝ること」よりも**「毎日同じ時間に起きること」**です。起床時間を固定することで体内時計が整い、自然と夜に眠くなるリズムができあがります。

休日も平日と同じ時間に起きることが理想ですが、難しい場合でも起床時間のずれは1〜2時間以内に収めるよう心がけましょう。

2. 日中の活動量を確保する

日中にしっかり体を動かすことで、夜に自然な眠気が訪れやすくなります。特に屋外での活動は、日光を浴びることで体内時計の調整にも役立ちます。

ただし、就寝直前の激しい運動は逆効果になることがあるため、夕食後は穏やかに過ごすようにしましょう。

3. 就寝前のルーティンを作る

発達障害のあるお子さまは、見通しが立たないことに不安を感じやすい傾向があります。毎晩同じ流れで就寝準備を行う「入眠儀式」を作ることで、「次は寝る時間だ」と気持ちの準備がしやすくなります。

🌙 就寝前ルーティンの例(所要時間:約60分)

1
就寝60分前 テレビ・ゲーム・スマホを終了する
2
就寝50分前 お風呂に入る(ぬるめのお湯でゆっくりと)
3
就寝30分前 パジャマに着替え、歯みがきをする
4
就寝20分前 寝室に移動し、絵本を読む or 静かな音楽を聴く
5
就寝10分前 明かりを暗くし、布団に入る
6
就寝時刻 「おやすみなさい」で消灯

※お子さまの年齢や好みに合わせてカスタマイズしてください

4. スクリーンタイムの管理

テレビ、ゲーム、スマートフォン、タブレットなどの画面から発せられるブルーライトは、メラトニンの分泌を抑制し、入眠を妨げます。就寝2時間前にはこれらのデバイスの使用を終えることが理想です。

とはいえ、発達障害のあるお子さまの中には、ゲームや動画に強い執着を示し、急にやめさせることが難しいケースも多いでしょう。その場合は、以下のような工夫を取り入れてみてください。

  • タイマーを使って終了時刻を視覚化する
  • 「あと10分で終わりだよ」と事前に予告する
  • 終了後の行動(お風呂に入る等)をあらかじめ伝えておく
  • 終了できたら褒める、シール帳にシールを貼るなど、達成感を与える

【安心感編】リラックスできる環境をつくる

1. 安心アイテムの活用

発達障害のあるお子さまの中には、特定の素材(特に柔らかくてふわふわしたもの)を好む方が多くいます。お気に入りのぬいぐるみや抱き枕、やわらかいブランケットなど、安心できるアイテムと一緒に眠ることで、リラックスしやすくなることがあります。

また、適度な重さのある「加重ブランケット」は、全身を包み込まれるような安心感を与え、不安を軽減する効果があるとされています。

2. 寝る前のスキンシップ

お子さまが嫌がらなければ、就寝前の軽いマッサージやなでなでは、リラックス効果があります。ただし、触覚過敏があるお子さまの場合は無理強いせず、本人が心地よいと感じる方法を探しましょう。

3. 不安への対応

夜や暗闘が怖い、一人で眠るのが不安、というお子さまも少なくありません。その場合は無理に一人で寝かせようとせず、以下のような工夫をしてみてください。

  • しばらくは添い寝をする
  • 「大丈夫だよ、隣の部屋にいるからね」と安心させる声かけをする
  • オレンジ色の常夜灯をつける
  • ドアを少し開けておく

【年齢別】対応のポイント

年齢別:睡眠改善のポイント

乳幼児期(0〜3歳)
  • 夜泣きや入眠困難は、後にASDの特性が顕著になるケースも。気になる場合は早めに専門家に相談を
  • 昼寝の時間が長すぎる・遅すぎると夜の睡眠に影響するため調整を
  • 入眠儀式をシンプルに、毎日同じ流れで行う
  • 21時までには寝かせることを目標に
幼児期〜小学校低学年(4〜9歳)
  • 昼寝からの卒業時期。夕方以降の昼寝は避ける
  • 就寝前のルーティンを本人と一緒に決め、視覚的なスケジュール表を作ると◎
  • ゲームやテレビの終了時刻を明確にし、タイマーを活用
  • できたことを褒め、睡眠への前向きな気持ちを育てる
小学校高学年〜中学生(10歳〜)
  • 思春期に入るとメラトニンの分泌時刻が遅くなり、夜更かしになりやすい
  • スマホやSNSの管理がより重要に。家族でルールを話し合う
  • 「なぜ睡眠が大切か」を本人が理解できるよう、一緒に考える
  • 起立性調節障害の合併も多い年代。朝起きられない場合は小児科に相談を

こんな時は要注意:専門家への相談が必要なケース

家庭での取り組みを続けても改善が見られない場合や、以下のような症状がある場合は、医療機関への相談を検討してください。

専門家への相談をおすすめするケース:

  • 入眠まで毎晩1時間以上かかる状態が続く
  • 夜中に何度も目が覚め、再入眠に時間がかかる
  • 十分な睡眠時間をとっているはずなのに日中ひどく眠そうにしている
  • いびきがひどい、睡眠中に呼吸が止まることがある
  • 睡眠中に激しく動く、叫ぶ、歩き回る(睡眠時随伴症)
  • 睡眠リズムが大きく乱れ、昼夜逆転している
  • 睡眠の問題により不登校など日常生活に大きな支障が出ている

受診できる医療機関

お子さまの睡眠問題について相談できる医療機関には以下があります。

  • かかりつけの小児科: まずは普段診ていただいている小児科に相談するのがおすすめです
  • 発達外来・児童精神科: 発達障害の診断・治療を行っている場合は、睡眠の相談もできます
  • 睡眠外来: 睡眠を専門に診る医療機関で、小児の睡眠障害に対応しているところもあります
  • 発達障害者支援センター: まずどこに相談すればよいか分からない場合は、地域の支援センターに問い合わせてみましょう

治療薬について

2020年に「メラトベル」(一般名:メラトニン)という薬が、「小児期の神経発達症に伴う入眠困難の改善」を効能・効果として日本で承認されました。これは、人の体内で作られるメラトニンと同じ成分の薬で、自然な眠りを誘導する作用があります。

臨床試験では、入眠までの時間が短くなるだけでなく、興奮性や多動などの行動面の改善も認められたと報告されています。

ただし、薬はあくまでも睡眠改善の補助的な手段です。薬だけに頼るのではなく、生活リズムの調整や睡眠環境の改善といった「睡眠衛生指導」と組み合わせて取り組むことが大切です。投薬の必要性については、必ず医師と相談の上で判断してください。


睡眠改善チェックリスト

最後に、ご家庭での取り組みを振り返るためのチェックリストをご用意しました。全部できている必要はありません。できていない項目があれば、そこから改善を始めてみてください。

睡眠改善チェックリスト

【環境】
【生活リズム】
【就寝前】
【安心感】

まとめ

発達障害のあるお子さまの睡眠問題は、決して珍しいことではなく、多くのご家庭が同じ悩みを抱えています。睡眠の問題には、脳の機能特性、感覚過敏、切り替えの難しさなど、発達障害の特性と深く関わる原因があり、「しつけが悪い」「怠けている」わけでは決してありません。

大切なのは、お子さま一人ひとりの特性を理解し、その子に合った環境や方法を見つけていくことです。この記事でご紹介した改善策の中から、できそうなものを一つずつ試してみてください。すぐに効果が出なくても、焦らず続けることが大切です。

そして、家庭での取り組みだけでは改善が難しい場合は、遠慮なく専門家に相談してください。近年は治療薬という選択肢も増え、適切なサポートを受けることで睡眠が改善するケースも多くあります。

お子さまが安心してぐっすり眠れる夜を迎えられるよう、そしてご家族みなさまが穏やかな時間を過ごせるよう、心から応援しています。


参考文献

【公的機関・学会資料】

  • 厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」
  • 厚生労働省 e-ヘルスネット「こどもの睡眠」
  • 米国睡眠医学会(AASM)「小児の推奨睡眠時間」(J Clin Sleep Med 2016; 12(6):785-6)
  • 国立障害者リハビリテーションセンター研究所「発達障害者の感覚の問題」

【医学文献・専門書】

  • 山下裕史朗 編著『日常生活から学ぶ 子どもの発達障害と睡眠』診断と治療社、2022年
  • 神山潤「発達障害児の睡眠関連病態」脳と発達 2005;37:150-156
  • Owens JA et al. Use of pharmacotherapy for insomnia in child psychiatry practice: A national survey. Sleep Med. 2010;11:692-700

【専門機関ウェブサイト】

  • ノーベルファーマ株式会社「神経発達症(発達障害)と睡眠障害」 https://www.nobelpharma.co.jp/general/insomnia/01/
  • 瀬川記念小児神経学クリニック「睡眠障害」 https://segawa-clinic.jp/neurological/disease/sleeping.html
  • LITALICO発達ナビ「発達障害がある子どもの不眠、どんな対処法がある?」 https://h-navi.jp/column/article/35027147
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